詠坂雄二の「5A73」を読んだ。JISコードに存在しているのに読みも意味も持たない「幽霊文字」という実在する概念をモチーフにしたミステリーで、設定だけでもかなり面白そうだと思って手に取った。
構成がうまくて、謎の死亡事件を追う刑事の捜査パートと、当事者視点の事件パートが交互に展開していく。捜査パートで積み重なった謎が、事件パートで少しずつ答え合わせされていく流れが心地よくて、読み進める手が止まらなかった。
捜査を担当する刑事の山本と早川のキャラがよくて、やり取りがバディっぽく展開するので読みやすい。複雑なな幽霊文字の話も、二人を通すと自然に飲み込めるようになっている。
ただ、最後の解決パートだけ本当に残念だった。ここまで一緒に謎を追いかけてきた山本と早川が最後にほとんど関与しなくなってしまい、事件が怪異的な方向でまとめられてしまう。怪異で締めること自体はこの作品の性格上まだ許容できるとして、それでも二人の刑事が最後まで物語に絡んでいてほしかった。せっかくキャラクターへの愛着が生まれていただけに、なぜここで退場させてしまうのかと、読み終えてもずっともやもやしている。
作者は冒頭で、タイトルの「5A73」は出版上の便宜であって本編には登場しないこと、そしてこれは実際に起きた出来事であることを書いている。後者については読んでいてかなり懐疑的になってしまったのだが、あのラストのあとだと冒頭の一文すら言い訳というか予防線のように見えてきてしまって、最初に戻って読むとなんとも複雑な気持ちになる。
途中まで本当に面白かった。だからこそラストが惜しい。
